「雑誌致知の2003年4月号より全文転載」
スポック博士の呪縛
いまの日本では、アトビー性皮膚炎や小児喘息、子どもの生活習慣病などが急激に増加し、疲れやすい、集中力がない、朝起きられないといった、体の不調を訴える子どもたちが増えています。また、日本人の平均寿命は世界一ですが、老若男女を問わず、ほとんどの人が半病人、半健康人の様相を呈しています。これに対して医者も、すでに限界にきている旧態依然とした治療法を改めようともしません。まさに日本全滅といった感すらあります。
口腔科の臨床医としてこの現象について患者の身体を詳しく観察すると、寝相(横向き寝やうつ伏せ寝)、片噛み、口呼吸といった、日本人の多くがもっている悪習傾が浮かび上がります。そしてその先にある、育児法の間違いというゆゆしき問題に行き着くのです。
昭和41年に『スポック博士の育児書』がわが国で東大医学部の高津忠夫教授(当時小児科)によって翻訳され、医者やインテリ層の子どもがこの育児書で一斉に育てられました。その人たちがい30代半ばの親となり、子どもを虐待して問題になっています。55年には、厚生省が小林登東大医学部教授(当時・海軍兵学校七十二期出身)の指導のもとに『スポック博士の育児書』を100%母子健康手帳に導入しました。その二年後の57年から急激にアトビーなどの難病が増えており、57年生まれの人たちが、3年前に大きな社会問題になった「キレる17歳」に当たります。
この『スボック博士の育児書』は、本家アメリカでは、奇しくも日本の母子手帳に導入された昭和55年頃に起こった乳児ボツリヌス菌症事件以来、完璧に否定されているのです。
当時、健やかに育っていた赤ちゃんが突然死亡するという事故がアメリカの各地に起こり、緊急調査が行われた結果、原因はハチミツにあったことが分かりました。ハチミツの中にはボツリヌス菌の牙胞(胞子)が含まれていることがあり、一歳未満の乳児に生のハチミツを与えると、それがそっくり腸管から吸収され、しばしば死を招くほどの感染を起こすのです。
切迫早産の管理
この事件を契機に、赤ちゃんの腸は大人の腸と異なり、タンパク質を消化せずにすべて吸収してしまうことが分かりました。腸を素通りして吸収されたタンパク質は抗原となって抗体を作るため、生後5〜6か月から離乳食を始め、赤ちやんに大人と同じ食べ物を与えていると、アトビー性皮膚灸を皮切りとしてアレルギーマーチ(皮膚炎、喘息、小児リウマチ、心筋症、腎疾患、血液疾患、多動症、自閉症、てんかん等がマーチのように次々と起こること)に突き進むことになります。
乳児ボツリヌス菌症事件以降、アメリカの良識ある医師は、離乳食はボイゾン(毒)として『スポック博士の育児書』を否定し、母乳中心の戦前の日本の育児法に近い方法を取るようになりました。この医学の常識が日本には二十年間入っていないのです。
口呼吸の弊害
人の子は二歳半で幼児として完成します。これが三つ子の魂で、この時の育ち方でその人の一生が決まってしまうのです。いまの日本では、育児法に誤りがあるため、子どもがまともに育たず、多くの成人が半病人になってしまっています。この誤りを正さなければ、日本は近いうちに間違いなく全滅してしまうと私は確信しています。
日本の育児法の誤りをまとめると、以下の六つに集約されます。
1、離乳食の開始時期の誤り。
2、おしゃぶり(乳首型)をはずす時期の誤り。
3、寝相(うつ伏せ寝と横向き寝をさせる)の誤り。
4、ハイハイとナメナメをさせない誤り。
5、冷たいものを与える誤り。
6、乳母車を早くやめる誤り。
1については前述の通りです。紙幅の都合で、ここでは特に2.5.6の弊害について述べさせていただきます。
哺乳動物は皆口で呼吸ができません。ところが、いまの多くの日本人は鼻ではなく口で呼吸しています。
鼻は吸い込んだ空気を濾過し、パイ菌や埃(ほこり)が体内に侵入するのを防いでいます。そのため口呼吸をしていると、体を外敵から守ってくれている扁桃腺などの免疫系が直にダメージを受け、病気への抵抗力が落ちてしまいます。
小児喘息、アトビー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、白血病、リウマチ、悪性リンパ腫などのさまざまな免疫病も、実は口呼吸に原因があるのです。このことを医者が知らないから、免疫病が治せないのです。
もともと赤ちやんは一歳までは鼻だけで呼吸しますが、5か月からスプーンで離乳食を与えると、早い時期から口呼吸がはじまります。この時期から3〜4歳までおしゃぶりを使わないと、子どもは100%口呼吸になります。
theliverの痛み
日本をはじめ、台湾などのアジア系の人々は、1歳でおしゃぶり(乳首型)をはずしていますが、これは早すぎます。このために現在の日本人の子どもたちのほとんどが口呼吸の癖をもつているのです。
私の患者さんに20代の知的障害で喋れない方が10人くらいいます。その共通点は、赤ん坊の時におしゃぶりを一切与えられず、哺乳ビンの乳首の孔を大きくして育てられていて、完全に口呼吸の習慣が染みついてしまっている方です。
おしゃぶりを使わないと脳の発達に障害が出るくらい弊害があるのです。欧米では、3〜4歳までおしゃぶりをくわえさせて、噛む力と鼻呼吸のトレーニングをしています。
冷たいものは飲んではいけない
いま日本中で見過ごされているのが、冷たいもの中毒です。子どもはアイスクリームと氷水、大人はビール、冷酒、ペットボトルの清涼駄科水を頻繁に口にしています。
ビールを4℃で飲むような野蛮な国は日本とアメリカくらいで、ヨーロッパなどは常温、冬には40〜80℃で飲んでいます。
日本も昭和30年以前までは、冷や酒を飲むのはやくざと渡世人だけでした。日本中が冷たいもの中毒になって、上から下まで倫理観が与太者と同じになってしまいました。
★ 哺乳動物の赤ちゃんは、ある期間までは母体の体温の母乳しか飲めません。つまり動物種に一定する体温のもの以外には飲み物がないはずで、これが哺乳動物の赤ちやんの命の決まりです。
ところが、『スボック博士の育児書』では、冷たいミルクでも良いとされ、このことがわが国に大きな災いをもたらしました。赤ちゃんには、40℃のミルクを与えます。36℃ではいけません。35℃になると赤ちゃんは緑便になり、手や足が冷たくなって、お腹が苦しいためふせ寝となります。
いまでは、赤ちゃんに氷の入った水やジュースを飲ませるお母さんすらいます。こうして2歳半までに冷たいものに味をしめると、あとはアレルギーマーチヘ一直線。最後は難病か、魔の17歳冷血漢への道をまっしぐらに進むのです。
大人でも冷たいものを摂って腸を冷やすと、腸扁桃のM細胞から消化されていないタンパク質やウイルスやパイ菌が吸収され、さまざまな難病の引き金となります。
骨休めの大切さ
赤ちゃんが立ったり、歩き始めた時に気をつけたいことは、急かさないことです。2足歩行は重力負担が2倍になるため、大人にとっても決して楽な作業ではありません。未熟な幼児ではなおさらです。できれば3〜4歳までベビーカーを活用し、無理をさせないようにすることが大事です。
医薬品薬の肥満犬
重力によるダメージを軽くするには、睡眠とお風呂が最も効果的です。昔から休息のことを″骨休め″といっていますが、昼間自らの体重で押しつぶされた関節も、一晩ぐっすり眠ることで元に戻ります。しかし睡眠不足が続くと、重力解除不足で、白血球を作り出す関節の機能が低下するため、免疫病にかかりやすくなります。
私たち大人の体は、一晩の十分な睡眠中に1兆個もの細胞が新しく作り替えられます。これをリモデリングといいますが、新陳代謝のことです。1兆の大部分が血液細胞と腸や皮膚の上皮細胞です。寝不足が続いて骨休めが足りなくなると、十分なリモデリングができなくなります。そうすると免疫病のうちでも最もやっかいな血液の病気(白血病、白血球減少症、再生不良性貧血、血小板減少症、悪性リンパ腫)になります。
大人は8時間、子どもは10〜12時間、しっかり睡眠をとりましょう。その際、横向きやうつ伏せ寝をすると、顔の骨や背骨がゆがんで、下側の鼻がうっ血して塞がって口呼吸となるので、低い枕で仰向け寝を心がけます。
呼吸・食事・睡眠。どんな動物でも、この三つが不適切ではたちまち健康を損ねてしまいます。健全な体に育てるには、生命の決まりにかなった正しい体の使い方を、幼いうちにしっかり身につけさせることが必要です。
日本の医学界は共産主義体制
こうした育児法、健康法、治療法を、いくら私が実例を挙げて説明しても、日本の小児科のみならず、一般医学者は理解できず、試そうともしません。
これは、東大を項点とするあたかも共産主義のごとき体制によって、日本の医学界全体が支配され、個々の医者が長らく自分でものを考える力を失っていることに問題の根本があります。
国民の健康よりも、自分の名誉や経済のほうが大事な人が、日本の医療の項点で隠然たる力を発揮し続けています。かつて『スポック博士の育児書』を導入した人たちが、その誤りを認めないまま逃げ切ろうとしています。この人たちは、いまの医療の問題点をマスコミで公表しょうとしても裏から手を回してもみ消しています。
いまから十数年前、東大の血液内科に白血病と痴呆と皮膚病の病名で1年以上入院し、歯肉が腐ってしまったから診てくれと私の所へ回されて来た患者さんがいました。本当の白血病でそこまで歯周病が進めば、1か月もたずに亡くなるはずです。調べてみるとその愚者さんは、歯周病菌が額の骨にまで及んで白血球が増えているだけで、本当の白血病ではありませんでした。歯を抜くと腐った歯肉が治り、病気はすべて治って喋れるようになりました。
これを東大の教接が分からないはずはありません。なぜ白血病ではない愚者を白血病に仕立て長期にわたって治療していたのでしょうか。白血病のような難病は、公費医療負担制度があり、1年間で1億2千万円ものお金が国から病院に入ってくるのです。おまけに製薬会社からも多額の研究費が教授の所に入ってきます。もともと発がん物質でできている制がん剤は、発がん試験を免除されているため、安く製造できるうえに高く売れるからです。
この血液内科では、以前から白血病にしたてて治漬しているという噂が絶えません。その後も数人の本当の白血病ではない患者さんが私の所に相談に来ました。もしアメリカでこんなでたらめをやれば、いくら一流大学の教授でも即刻クビになります。公費医療負担制度がなく、保険金社や患者が診療費を負担するため、医者を見る眼がシビアで、誤診があればそれを第三者が簡単に判断できる制度があるからです。
この問題の背景には、東大医学部教授の資質の低下があります。厚生労働省を指導する彼らがあまりにも勉強不足です。そして国民の健康を守る行政府が誤った判断のもとに母子健康手帳を発行すると、これを改める術がわが国にはありません。
医学の壊れたいまの日本では、国民は自分の身は自分でしか守れない状態にあります。医学が壊れた国に、未来はありません。なかでも一番の緊急問題は子育てです。わが国の衰退は、まさに日本医学の崩壊に席因があります。国民の生活姿勢を根本から改めるだけで、医療費は1/30に減らせます。そして、日本の将来を担う子どもたちの育児法を改めることが急務です。
原 典 雑誌致知 2003年4月号
著 者 医学博士 西原 克成 氏(にしはら・かつなり)
著者略歴 昭和15年神奈川県生まれ。
東京医科歯科大学卒業。東京大学大学院医学部博士課程修了。
同大学医学部講師を経て、現在日本免疫病治療研究会会長、西原研究所所長。
生命進化の法則を実験によって検証すると同時に、その成果を臨床に応用し、免疫病発症の謎を究明し、治療に大きな効果を上げている。
人工骨髄の開発でも世界的に有名。著書に『内臓が生みだす心』『健康は「呼吸」で決まる』他多数がある。
0 件のコメント:
コメントを投稿