2012年5月15日火曜日

がんおよび各種疾患に関する情報|新潟県立がんセンター新潟病院


慢性リンパ性白血病(成人)とは | 症状 | 診断 | 病期(ステージ) | 治療 | 各病期(ステージ)別の治療 | 治療成績及び予後 | 外来治療の際注意すべきこと

 慢性リンパ性白血病とは

慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia; CLL)は一般的に「血液のがん」といわれる白血病のひとつです。白血病にはいくつかの種類がありますが、細胞の種類から骨髄性とリンパ性とに分けられます。また未熟なリンパ球が増加する場合と成熟したリンパ球が増加する場合とで、急性リンパ性白血病と慢性リンパ性白血病とに分けられます。これらは骨髄やリンパ系組織の中で発症します(血液細胞の種類、骨髄やリンパ系組織のことについては「慢性骨髄性白血病」、「急性リンパ性白血病」の項を参照して下さい)。通常、血液の中に成熟したリンパ球が著しく増加した状態が慢性リンパ性白血病です。リンパ球の種類によりB細胞とT細胞とに分けられます。白血病細胞は、リンパ節、骨髄、脾臓などで非常にゆっくり増殖し蓄積します。

慢性リンパ性白血病は、小児には少なく、成人でも中年以降に好発します。頻度は年間、10万人に1~3人の発症率です。リンパ球のがんには、悪性リンパ腫や他の白血病がありますが、これらとは病態や治療法が異なります(詳しくは「悪性リンパ腫」、「急性リンパ性白血病」の項を参照して下さい)。

慢性リンパ性白血病の原因はまだ明確ではありません。そのため危険因子や予防方法も明らかではありません。

 症状

慢性リンパ性白血病の細胞は骨髄、リンパ節、末梢血の中で増殖しますが、細胞の増加による直接の症状はあまりみられません。しかし一般的には、白血病細胞が増殖することによりリンパ節や脾臓、肝臓が腫れてきます。T細胞性白血病の場合には、皮膚や中枢神経に転移しやすい傾向があります。また骨髄の中で白血病細胞が著しく増加した場合には、正常な血液が造られず、貧血や血小板減少による出血傾向などの症状がおこることがあります。またリンパ系の細胞の異常や免疫力の低下などにより、細菌やウイルスに対する抵抗力がなくなり、発熱や肺炎などの感染の症状が認められることがあります。白血病細胞 の増殖により体重減少、全身倦怠感、発熱、寝汗などの症状が見られることもあります。合併症として身体の抵抗力のもとである免疫の異常がおこることもあります。免疫の異常による溶血性貧血や、赤血球だけが少なくなる赤芽球癆(せきがきゅうろう)といった特殊な貧血、血小板減少がみられることもあります。

 診断

慢性リンパ性白血病の発病の初期は無症状なので、最近では健康診断での血液検査等で見つかったり、ある程度進行してから全身の症状が少しずつ出現し発見されることもあります。他のがん同様、早期発見が望ましいのですが難しいのが実情です。

原因がなく微熱やだるさが続いたり、からだのリンパ節が腫れたり、肝臓や脾臓が腫れたりしているような場合、まず血液検査を行います。これはからだの血液細胞の内容と数を調べるためのものです。


私の慢性疲労症候群と慢性痛

血液検査で異常が認められた場合には、骨髄の検査を行います。骨髄検査は胸の胸骨や腰の骨である腸骨に細い針を刺して(骨髄穿刺)、骨髄液を吸引し、骨髄の中で増えている細胞が何であるかを調べるものです。白血病の場合には、細胞の免疫学的検査により細胞の種類(細胞表面のマーカーの違いによるT細胞性白血病、B細胞性白血病など)を検査します。さらに白血病細胞の染色体検査などを行います。いくつかの診断基準がありますが、一般血液検査にて血液量1ml 中にリンパ球が10,000個以上あり、それらが明らかに成熟したリンパ球である場合には、まず慢性リンパ性白血病が最も疑われますが、以下の疾患との鑑別が必要です。

1.急性リンパ性白血病

2.特殊なタイプの白血病(ヘアリー細胞白血病、前リンパ性白血病)

3.悪性リンパ腫の白血病化

4.成人T細胞性白血病

これらとは主に細胞表面のマーカーの違いにより、鑑別診断をつけます。

 病期(ステージ)

慢性リンパ性白血病が見つかった場合(診断がついた場合)、より詳しい検査により病気の進行の程度、身体の中での拡がりの程度を調べます。これを病期分類といいます。いくつかの分類がありますが、中心になるのは症状、白血球の数、貧血の有無、リンパ節などが腫れていることなどです。治療を計画的に受けるには慢性リンパ性白血病のどの病期にあたるのかを知っておく必要があります。下記のような病期分類がよく使われます。

0 期:

  • 血液中のリンパ球の数だけが多く、からだの症状や異常は全く認められません。肝臓、 脾臓、リンパ節はまだ腫れてはおらず、赤血球数、血小板数は正常です

I 期:

  • 血液中のリンパ球の数が増加し、リンパ節が腫れてきます。しかし肝臓、脾臓はまだ腫れてはおらず、赤血球数、血小板数も正常です。

II 期:

  • 血液中のリンパ球の数だけが多く、肝臓、脾臓、リンパ節が腫れてきている状態です。

III 期:

  • 血液中のリンパ球の数が増えていて、貧血が出現しはじめている状態です。肝臓、脾臓、リンパ節が腫れていることもあります。

IV 期:

  • 血液中にリンパ球の数が増え、血小板数が減少しはじめている状態です。出血しやすい状態で、貧血が認められたり、貧血がおこりはじめている状態です。肝臓、脾臓、リンパ節が腫れていることもあります。

治療不応状態:


デメロールIMのたわごとのためにお尻の痛み
  • 不応とは薬剤を投与して治療しても、白血病細胞が減少しない状態です。

 治療

慢性リンパ性白血病の治療の主体は、抗がん剤を用いた化学療法です。この他に、放射線療法や造血幹細胞移植あるいはモノクローナル抗体による治療が行われることもあります。すでに確立されている標準的な治療方法がありますが、完全に治すことはなかなか難しいのが実情です。そのため、さまざまな新しい治療方法が試みられています。新しい薬の臨床試験や、造血幹細胞移植を併用した大量化学療法の臨床試験なども試みられています。以下のように病気そのものに対する治療、及び病気に付随する合併症に対する治療があります。

1) 化学療法

化学療法は、抗がん剤が血流に乗り、全身に運ばれて白血病細胞を殺すため、全身療法と考えられています。抗がん剤には、注射や点滴、飲み薬などいろいろな種類があります。我が国で使用される主な薬は、抗がん剤であるシクロフォスファミド、ビンクリスチン、フルダラビンなどです。抗がん剤による副作用は、主に白血球、赤血球と血小板の減少(血液毒性)と、これに伴った感染、発熱です。また、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、そして便秘などの消化器症状もみられることがあります。これらの副作用に対しては、いろいろな予防法、対症治療が進歩し、安全に治療が受けられるようになりつつあります。

抗がん剤以外では、生物製剤があります。生物製剤とは、すでに身体の中にある活性物質を実験的に合成し、自分の身体の抵抗力を増すようなかたちで使われるもので、現在悪性度が低いB細胞悪性リンパ腫の治療に承認されたモノクローナル抗体治療も使用可能となりました。これはリツキサンと呼ばれる薬剤で、B細胞の表面に出ている、CD20という抗原に特異的に結合するもので、非常に高い治療効果が報告されています。

2)放射線療法

多くの場合、慢性リンパ性白血病が原因で大きくなった脾臓や、リンパ節、腫瘤(しゅりゅう)などによる圧迫症状を緩和するため照射します。これは局所治療であり、対症治療のひとつです。

3)造血幹細胞移植療法

白血病に侵された骨髄を健康な骨髄に置きかえる治療法です。大量の抗がん剤や放射線照射により、骨髄細胞をなくしてしまいますので、白血球の型が完全に一致した兄弟または非血縁者の健康な造血幹細胞をもらい移植します。これは同種移植と呼ばれます。全身状態が良好で臓器機能が正常であれば、50歳までは施行可能とされています。

4)合併症の治療

感染に対しては抗生物質の投与などが行われます。自分の免疫の異常でおこる溶血性貧血などに対しては、免疫の異常を抑える目的でステロイドホルモン剤などの薬が使われることもあります。


胆汁性頭痛

 各病期(ステージ)別治療

慢性リンパ性白血病の予後(治療による今後の見通し)は、B細胞性白血病であるかT細胞性白血病であるかなどの種類や白血病がどこまで拡がっているのか、また細胞の染色体に異常があるかどうか、さらに年齢や全身の状態により異なります。一般的には、T細胞の慢性リンパ性白血病の予後は悪いとされています。現状では、たとえ慢性リンパ性白血病に対する標準的治療を行っていても、完全治癒に結びつくことは例外的です。

0期

リンパ球数が非常に多い場合には、それを減らすために抗がん剤を使うこともあります。白血病の症状が悪化する前に治療が開始できるように、定期的な診察と検査を受けることが大切です。

I期

次のような選択肢があります。

  1. 身体の症状や異常が全く認められない場合には、治療の必要がないこともあります。この場合には、白血病による症状が悪化する前に治療が開始できるように、定期的な診察と検査を受ける必要があります。
  2. リンパ節がはれてきた場合には、そこに放射線療法を行うこともあります。
  3. 化学療法は、多くの場合、シクロフォスファミド及びビンクリスチンという抗がん剤を使います。数ヶ月の治療後、症状が改善されればいったん治療は中止します。

II期

次のような選択肢があります。

  1. 身体の症状や異常がほとんど認められない場合には、治療の必要がないこともあります。この場合には、白血病が悪化しないうちにすぐ治療が開始できるように、定期的な診察と検査を受ける必要があります。
  2. 化学療法は、多くの場合、シクロフォスファミド及びビンクリスチンという抗がん剤を使います。数ヶ月の治療後、症状が改善されればいったん治療は中止します
  3. 生物製剤による治療も行われています。これらは自分の身体の抵抗力・免疫力を増すようなかたちで使われます。
  4. 脾臓がはれてきた場合には、脾臓に放射線療法を行うこともあります。

III期ないしIV期

次のような選択肢があります。

  1. シクロフォスファミド及びビンクリスチンという抗がん剤による化学療法を受けるか、あるいはこれが無効の場合、フルダラビンの化学療法を受けます。数ヶ月の治療後、症状が改善し、1ヶ月以上安定した状態が続けばいったん治療は中止します
  2. 新しく承認されたリツキサンというモノクローナル抗体による免疫療法も行われています。
  3. 同種造血幹細胞移植を用いた大量の抗がん剤による治療も行われています。
  4. 脾臓がはれてきた場合には、脾臓に放射線療法を行うこともあります。

治療不応状態


標準的治療を受けていても、予想に反して治療効果が十分に達成できないこともあります。病気が残り、しかも薬が効かない状態を治療不応といいます。ただし、病気の進行が遅いこともあり、常に合併症に注意することが大切です。この時期には標準的治療の効果があまり期待できないために、新しい抗がん剤、または骨髄移植の臨床試験が行われています。臨床試験に参加することは、個人の意思によります。治療の副作用と効果、及び身体の状態をよく理解した上で、新しい薬剤や骨髄移植などの臨床試験に参加するかどうか判断することが大切です。

 治療成績および予後

未治療の場合、全体の生存率は5年が60~80%、10年が20~30%、20年が10%ですが、病期により大きな差があります。化学療法を受けた場合には、白血球数が低下し正常化し、症状も一旦は軽快消失し、寛解状態に到達します。しかし寛解状態に到達しても必ずしも治癒には結びつきませんので、長い目でみた治療が必要となります。再発ないし治療抵抗性となる場合がありますので、定期的な検査や治療が重要です。

治療不応状態の場合には、寛解に達することは期待されず病気が進行し、平均生存期間は約14ヶ月とされます。

病期別の治療成績、予後の改善は、CD20に対するモノクローナル抗体である、リツキサンの登場によって大きく改善されてきています。また、現在臨床試験が行われている新しい抗がん剤、インターフェロンなど、あるいは骨髄移植などの新しい治療方法により、将来治療成績がより改善してくることは十分期待できます。

 外来治療の際に注意すべきこと

慢性リンパ性白血病の治療の主体は、外来治療です。外来で化学療法を受ける場合もあります。外来治療の際には、以下のことに注意して下さい。

1) 高い熱が出た場合には要注意です。担当医より抗生物質が出されている場合には指示通り服用して下さい。注射による抗生物質が必要になることもありますので、具合の悪い時には、担当医または通院している病院に電話連絡をして下さい。

2) 病気や治療により感染に対する抵抗力が低下します。このため帯状疱疹(たいじょうほうしん: 水疱を伴った発疹が出現し、痛みを伴うことが多く、ヘルペスとも呼ばれる)や他のウイルス疾患を合併しやすくなります。このような場合にも、早く抗ウイルス剤による治療を開始することにより重症化を防ぐことができます。担当医に連絡するか皮膚科の医師の診察を受けて下さい。

3) 慢性リンパ性白血病は治療が順調に進んでいても、長く同じような状態が続く病気です。できるだけ仕事や家事を続けながら外来治療を受け、通常の社会生活を送ることを勧めます。

以上の情報は国立がんセンター がん情報サービス係制作のものを元に作成しました。不明な点、お問い合わせのある方は下記まで御連絡ください。

2012/04/19更新

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