@急性硬膜下血腫とは
硬膜は頭蓋骨のすぐ内側にあり、頭蓋内で脳を覆っている結合識性の強い膜です。この硬膜の内側で脳の表面に出血が起こると、出血した血液が硬膜の直下で脳と硬膜の間に溜り、短時間のうちにゼリー状にかたまって、脳を圧迫します。これが急性硬膜下血腫です(図1)ほとんどが大脳の表面に発生しますが、ごく稀には左右の大脳半球の間や小脳表面(後頭蓋窩)に発生することもあります。急性硬膜下血腫は予後不良を示唆する所見として重要です。
A急性硬膜下血腫の原因と頻度
急性硬膜下血腫発生の原因のほとんどが頭部外傷によるものです。最も典型的な発生のしかたは、頭部外傷により脳表に脳挫傷(図2−c, 図3−c)が起こりその部の血管が損傷されて出血し、短時間で硬膜下に溜まるというものです(図2−b, 図3−b)。その他、脳自体の損傷はあまり強くなく、外力により脳表の静脈や動脈が破綻して出血するものもあるとされています。受傷機転は転落、交通外傷、殴打などであり、あらゆる年齢層にみられますが、とくに高齢者に多くみられます。小児ではまれですが、虐待による頭部外傷では比較的多くみられることが知られています。また、若年者ではスポーツ中の頭部外傷の際にみられることもあります。米国のTraumatic Coma Data Bank (TCDB)からの報告(1984年〜1987年)では急性硬膜下血腫手術例は重症頭部外傷例中の21%、頭蓋内血腫例中の58%でした。重症頭部外傷例とは、呼びかけや痛み刺激などで覚醒反応(目を開けたり、受け答えをしたり、指示に従ったりすること)がみられない症例のことです。我が国の重症頭部外傷データバンク(JNTDB)の結果(1998年〜2001年)では急性硬膜下血腫手術例は重症頭部外傷例中の31%、頭蓋内血腫手術例中の74%でした。JNTDBとTCDBのデータベースの大きな違いは、JNTDBに高齢者が多いことです。前述しましたように急性硬膜下血腫はどちらかというと高齢者に多くみられる疾患です。JNTDBに急性硬膜下血腫の頻度が高かったのはこの年齢差が影響した可能性があります。
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B急性硬膜下血腫の症状と経過
急性硬膜下血腫は強い外傷で起こることが多いために脳の損傷も強く、通常受傷直後から意識障害を呈します。ただ、前述しましたように、なかにはあまり脳自体の損傷はなく血管の損傷が主体のこともあります。そのような場合には、血腫の増大に伴って徐々に脳が圧排され、受傷当初にははっきりしなかった意識障害が徐々に出現してくることもあります。高齢者の日常生活内での転倒による受傷や、若年者ではスポーツ外傷などで時にみられるものです。いずれにしましても、意識障害は次第に悪化し多くは昏睡レベルに達します。受傷当初は意識障害がない例でも、一旦意識障害が発現するとその後は急激に悪化することが多く、予後はきわめて不良です。ただ、ごく稀ながら、早期に急性硬膜下血腫が自然消失あるいは縮小す� ��ことがあります。そのような場合には血腫縮小に伴い意識障害が改善することもあります。
C急性硬膜下血腫の診断方法
診断の確定は通常CT で行われます。CT上、急性硬膜下血腫は脳表を被う三日月型の高吸収域として描出されます(図2−a, 図3−a)。出血は硬膜下腔に拡がるため短時間で血腫は形成され、通常片側の大脳半球全体をおおいます。まれに大脳縦裂(大脳鎌と後頭・頭頂葉内側面との間)や後頭蓋窩に血腫が形成されることがあります。
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D急性硬膜下血腫の初期治療
頭部CTなどで急性硬膜下血腫の診断がついた場合、救急処置室からの呼吸循環管理を続行しながら、緊急手術に備え準備を行います。頭部以外の合併外傷(血胸や肝損傷、骨盤骨折など)の有無や処置についても対処していかなければなりませんが、CT上に脳の圧排所見があれば緊急手術を意図するのが普通です。意識清明かあるいは、意識障害が軽度でかつCT上の脳圧排所見もないような場合には、その後の状態悪化や手術適応となる可能性を十分認識したうえで、厳重な経過観察と保存的加療を行うこともあります。また、稀には手術を意図しての準備中、あるいは待機中に意識障害が改善に向かう症例があり、このような症例では血腫が自然消退していくものもありますが、例外的な症例と考えられます。多くの症例では意識障害は� ��行し、かつ急激な悪化をみることが多く、緊急手術によっても救命さえ困難なことも多々あります。
E急性硬膜下血腫の手術
血腫を完全に除去し、出血源を確認して止血するためには、全身麻酔下に開頭して血腫除去を行うのが確実です(図2, 図3)。しかしそれでは間に合いそうにない場合や、非常に重篤で全身麻酔下の開頭手術にたえられそうにない場合など、穿頭や小開頭で血腫除去を試みることもあります。状況によっては救急処置室などで穿頭や小開頭である程度血腫を除去し、その後状態をみて全身麻酔下の開頭手術に移行することもあります。また全身麻酔下の開頭手術に際し、術後の脳圧排を軽減するために、あえて開頭した骨片をもとの部位に戻さずに、皮下組織と皮膚のみで閉頭し(外減圧術)、1〜2ヶ月後に状態が落ち着いた時点で、保存しておいた骨片を戻して整復するという方法がとられることもあります。いずれの方法を選択するかは、重症度や全身状態、脳圧排の程度、年齢などによって決定されます。我が国の「重症頭部外傷治療・管理のガイドライ ン」に記載されております、急性硬膜下血腫の手術適応基準、手術時期と方法を表1に示します。
沸騰は暖かくなければなりません
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F術後の管理
頭部外傷、特に重症脳損傷例では頭蓋内に多発性に損傷を受けていることも多いため、術後に新たな頭蓋内血腫が出現したり、増大したりすることがあります。CTなどによる厳重な観察が必要です。また一旦生じた脳損傷は、脳の腫れ(脳浮腫)や出血などさらに次の脳損傷(二次性脳損傷)へととぎれることなく進展していきます。この二次性脳損傷を制御できなければ結局は脳の腫れや圧排を改善させることはできず、最終的には脳死へと至ってしまいます。またたとえ救命できても後遺症としての脳機能障害が残ってしまいます。二次性脳損傷や脳の腫れを最小限に留めることが術後管理の主眼となりますが、呼吸や循環、栄養、体温管理などを行いながら合併症の発生を防ぐ以外、未だ本当に有効な治療法がないのが現状です。
G急性硬膜下血腫の転帰
JNTDBの結果では、急性硬膜下血腫手術例の死亡率はじつに65%、日常生活や社会生活に復帰できた症例はわずか18%のみでした。JNTDBは重症例のみを対象としたもので軽症例は含まれていませんから、急性硬膜下血腫全体の転帰はもう少し良いのかもしれませんが、とはいえ、そもそも急性硬膜下血腫症例の多くは重症例ですし、またこの中にはあまりに状態が悪くて手術が行えなかった症例(そのような症例のほとんどが死亡されたと考えられますが)は含まれていませんから、これより本当はもっと悪い可能性もあります。またたとえ日常生活や社会生活へ復帰した症例でも、ほとんどの症例が高次脳機能障害のために、ご家族も含め、満足な生活は送れていません。
Hなぜこんなに転帰が不良なのか
急性硬膜下血腫の発現自体が受傷時に重度の脳損傷を受けたことの証であるといえるかと思います。重度の脳損傷が転帰不良に関連するのは当然のことです。また急性硬膜下血腫の増大に伴い脳が急激に強く圧迫されるため、たとえ受傷当初は重度脳損傷はなくてもごく短時間で脳(脳幹)の機能不全をきたしてしまいます。この急激な悪化に対する迅速な対処が極めて困難であるというのが治療上の大きな問題点です。いったん機能不全に陥った脳を回復させる有効な治療法はありません。さらには前述した二次性脳損傷の問題があります。これを制御する有効な手段がないため、多くの症例に後遺障害が残ったり、あるいは脳死に至ってしまうということになります。加えて、急性硬膜下血腫が高齢者に多いということは、高齢者脳� ��外力に対する脆弱性を示す一つの所見と考えられますが、同時に、高齢は頭部外傷後不良転帰の重要な独立因子のひとつですから、これがまた転帰不良の一因となっていると考えられます。
参考文献
- 頭部外傷データバンク検討委員会報告書.神経外傷 25, 2002
- 重症頭部外傷治療・管理のガイドライン.神経外傷 23, 2000
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